挿入された過去の作品

この前の西インド諸島旅行など叔母さんはけっこう楽しんでいたらしいからな。もっとも殺人事件なんかに巻き込まれたのは気の毒だったけれど。

翻訳本 25頁

She enjoyed her trip to the West Indies, I think, though it was a pity she had to get mixed up in a murder case.

原文 14page

自分の作品の中に過去の作品を挿入することを絵画の世界では「画中画」というそうですが、小説の場合はどういうのでしょうね。

“バートラムホテルにて”は1965年に発表されています。文章内での西インド諸島とは、おそらく前年1964年発表の“カリブ海の秘密”のことを表しているのでしょう。

こういったいわゆる“お遊び”は、多作でしかも一定の水準を保持した作家に許されることなのではないでしょうか?

 

ちなみに絵画の世界の一例として、フランスの点描画で有名なジョルジュスーラ(1859-1891)が描いた作品に、この趣向が見られます。