同窓会は楽しい?!

 しばらくアガサ作品「バートラムホテルにて」に集中して、アップしています。

もちろん次回の「教えてアガサセミナー」の題材でもあるからですが、1965年発表のこの作品時、作者アガサ女史は75才でした。今どきの表現ですと「後期高齢者」となります。

徐々に昔を知る仲間が減っていき、それに反して世の中の変化のスピードは加速するばかり。見る見るうちに変貌を遂げる社会に抗い抵抗するうち、諦めがそっと忍び寄ってきます。バートラムホテルにての文中にも次の様な文章が見られます。

 

バートラムホテルは変わっていなかった。ミスマープルはいつもながらの明晰な常識でよく分かるのだが、昔のままの色合いで過去の思い出に磨きをかけてみようと思っただけである。彼女の人生の多くはやむを得ないことであるけれど、過去の楽しかったことを思い起こすことで費やされている。その思い出をおぼえているような人にでも出会うことが出来れば本当に幸せである。翻訳27頁

But Bertram’s Hotel had not changed.
She knew quite well, with her usual clear-eyed common sense, that what she wanted was simply to refurbish her memories of the past in their old original colours.  Much of her life had, perforce, to be spent recalling past pleasures. If you could find someone to remember them with, that was indeed happiness.  原文16page 

 

 他の作品(特にミス・マープルシリーズ)にも、変わりゆくイギリスの田舎風景がよく描かれています。それはどうしようもないことなのだ、という諦めに近い表現でマープル(アガサ本人?)の心情が吐露されています。

 

 

 仕事を離れた初老の男性(もちろん女性も)が、長らくあっていなかった旧友と同窓会で、お互いだけに通じる話に興じるのは、『その思い出をおぼえているような人にでも出会うことが出来れば本当に幸せである。』だからでしょう。

アガサ作品にふれると、しばし考えに深く陥ることがあります。この作品もそんな一冊です。