マープルのひとり言 

 彼女(ミス・マープル)の人生の多くは、やむを得ないことだけど、過去の楽しかったことを思い起こすことで費やされている。その思い出を覚えているにでも出会うことが出来れば、それこそ本当に幸せである。それも今では、容易なことではない。彼女は同時代の人たちよりも長生きしているのだから。

(バートラムホテルにて・アガサクリスティー作)

 

 アガサ女史の小説を読んでいると、ふっと本を置き考えに耽ってしまう文章に出会います。この一文もそのひとつです。

 先日、大学と高校の懐かしい友人たちと昔話に興じたのですが、同年代の友人の中には病魔に侵され一足先に他界したものもいます。

 幸せな時間を過ごせるなら、誰しも長生きをしたいでしょう。「人より長生き」したミスマープルにとって、長生きは幸せだったのでしょうか? この作品は1965年の発表です。アガサ自身は75才(彼女は1890年生まれ)になっています。

 以前は、マープルのモデルはアガサのお祖母さんと言われてきましたが、この作品当時は彼女自身が投影されたかのように思えます。