ポアロの一言 『その真っ赤なキモノを・・・』

  



私のスーツケースの中にその真っ赤なキモノをそっと入れた方がありましたが、・・・
It was, I think, someone who placed the scarlet Kimono on top of my suitcase.
(オリエント急行の殺人・NURDER ON THE ORIENT EXPREEEより)
  
 ヨーロッパを舞台にした物語に“キモノ”という言葉が、柾目の柱に節穴が突如現れたかのような印象を与えます。原文にもはっきりKimonoと書かれており、不自然さが目立ちます。

 19世紀の印象派に影響を与えたという“ジャポニズム”は、イギリスが清に仕掛けたアヘン戦争により、隣国の日本への好奇心まで生み出したから、という説があるそうです。大きな出来事が当事国周辺への知識欲を駆り立てるのは、春以降ウクライナ(+周辺)に関する報道が増えたことでも、アガサの作品にKimonoが現れたことを、説明できそうです。

 

以下は余談です・・・。

 

 この絵は、オランダの”画家フェルメール”による 地理学者 1669年 です。

ファルメールの作品、地理学者が身に着けているのは、日本の着物をベースにした衣服だそうです。


 17世紀、海洋交易国家として最盛期をむかえたオランダは、遠く大海を東へ進み日本までやってきます。先行したポルトガルとスペインが布教を目的としたのに比べ、ポルトガルは交易(商売)優先でした。

 長崎に出島を造ってもらったオランダが、日本の風俗に関心を持ったであろうことは、それほど不思議ではありません。アガサの作品からつい、この絵を思い出しました。話が長くなりすみません。

 

次回〈バートラムホテルにて〉の準備。

 前回のセミナーから早くも一カ月、来場いただいた方々へのお礼状と質問にお答えし終えて、ようやく次回のセミナーの準備にかかります。

 いつもながらのスロースターターですので、我ながら苦労します。 次回(今秋ぐらい?)は、ミスマープルの10作目、”バートラムホテルにて”を取り上げます。1965年の作品です。

 

 ミスマープルが、古き良きイギリスのホテルを舞台にした作品です。

参考資料を集め始めましたが、まずイギリス(ロンドン)のホテルとはどんなものかから、始めないといけません。さっそく、近隣の図書館から借りた本がずばり、『ロンドンのホテル』という1冊、(日経BP出版センター)です。

 

 

 沢山のホテルの写真と説明が載っています。作品の舞台となったバートラムホテルのイメージに合いそうなホテルと言えば、『ザ・コノート』というホテルが今のところ、イメージに合いそうです。

 

 

 資料集めが始まったばかり、さあこれから、本文と首っ引きで様々な書籍と動画を集めることになります。この段階が、一番私にとっても楽しい時間です。

 

マープルのひとり言 

 彼女(ミス・マープル)の人生の多くは、やむを得ないことだけど、過去の楽しかったことを思い起こすことで費やされている。その思い出を覚えているにでも出会うことが出来れば、それこそ本当に幸せである。それも今では、容易なことではない。彼女は同時代の人たちよりも長生きしているのだから。

(バートラムホテルにて・アガサクリスティー作)

 

 アガサ女史の小説を読んでいると、ふっと本を置き考えに耽ってしまう文章に出会います。この一文もそのひとつです。

 先日、大学と高校の懐かしい友人たちと昔話に興じたのですが、同年代の友人の中には病魔に侵され一足先に他界したものもいます。

 幸せな時間を過ごせるなら、誰しも長生きをしたいでしょう。「人より長生き」したミスマープルにとって、長生きは幸せだったのでしょうか? この作品は1965年の発表です。アガサ自身は75才(彼女は1890年生まれ)になっています。

 以前は、マープルのモデルはアガサのお祖母さんと言われてきましたが、この作品当時は彼女自身が投影されたかのように思えます。

 

 

教えてアガサセミナー第15回目と、次回の報告。

 

先週28日㈯、神戸市灘区のあすパークで、無事第15回”教えてアガサセミナー”は、無事終了いたしました。定員(10名)ぎりぎりの9名の方にお集まりいただき、オリエント急行の殺人を取り上げ、我ながら熱のこもった90分でした。
 今回は、写真・動画を取ることもすっかり忘れるほどの、盛り上がりようでした。

 

 

 次回はリクエストに応え、今年の10月あたり作品は『バートラムホテルにて』、ミスマープルシリーズ10冊目に当たります。
オリエント急行に比べて、少し地味な一作ですが、イギリスヴィクトリア朝の雰囲気を漂わせる作品です。
 さあ、また頭を悩ませる数カ月が始まります。

次回、5月28日のテキスト No.2

 いよいよ次回のセミナーが今週に迫ってきました。今できること、しなければいけないことは自分で作ったテキストの確認です。

 

というわけで、今回の最終テキストは「フィッシュアンドチップスの登場する作品」です。

 

 

次回、5月28日のテキスト No.1

 次回の”教えてアガサセミナー”に取り上げる作品は、名作「オリエント急行の殺人」です。過去、何回か会場を変えてお話をさせていただいた作品ですが、同じことを喋ってもしょうがないので、色々とポイントを変える趣向です。

 今回は何回か予告させていただいたように、”フィッシュアンドチップス”が、新しい題材です。

 

 とは言うものの、書き散らかしたかのような、投稿を一枚のテキストに仕立て上げるのは、なかなか大変です。(今に始まったことではありませんが。)

 出来上がった二枚のテキストのうち、今回は「フィッシュアンドチップスの誕生」と、銘打った一枚です。

 

 

フィッシュアンドチップスが登場する作品。

『七つの時計』
「昔はトテナムコート界隈の、まあ貧民街に近い土地柄だったけどね。今じゃすっかり取り壊されたり、撤去されたりしている。フィッシュフライとポテト。相対的にむさくるしい感じ。まさにイーストエンドの縮図ってところだけど、芝居がはねたあとで寄るには、すごく便利なんだ。」

 

 あるようでなかなか見つからないのが、フィッシュアンドチップスが作中に出てくる作品です。私が知らないだけかもしれませんが、今のところ『七つの時計』しか見つけられませんでした。

 この作品は1929年発表のアガサ女史39才、前夫アーチボルト・クリスティーとの離婚後、翌年の作品です。バトル刑事シリーズの第2作目となります。

 

 

 

 

 フィッシュアンドチップスが、そもそものロンドン労働者階級の食べ物であった故か、美食家のポアロには向かない食品のように思えます。アガサ女史本人もいつも食していたように思えません。(私の主観です。)

 

 材料に使われたのは、もともと中米からヨーロッパに持ち込まれたジャガイモと、主に北海で獲られた白身の魚(タラ・ニシンなど)でした。

 

 

 

 まだ漁船の性能が低かったころ、鮮魚は多くのロンドン市民にはなじみのない食品だったようで、後に蒸気船とトロール漁法、さらには蒸気機関車が導入されるにつれて多くの市民にも食されるようになったようです。

 とはいうものの、階級社会のイギリスのこと、もっぱら筋肉労働にたずさわる、労働者階級に愛されたようです。それゆえ、魚の荷揚げに従事する港湾労働者が住まう、ロンドン・イーストエンドはスラム化しました。連続殺人鬼として名高い”切り裂きジャック”の暗躍したのも、このイーストエンドでした。

(上の地図、ロンドンという文字の右側が通称イーストエンドと呼ばれる地域です。)