フィッシュアンドチップスが登場する作品。

『七つの時計』
「昔はトテナムコート界隈の、まあ貧民街に近い土地柄だったけどね。今じゃすっかり取り壊されたり、撤去されたりしている。フィッシュフライとポテト。相対的にむさくるしい感じ。まさにイーストエンドの縮図ってところだけど、芝居がはねたあとで寄るには、すごく便利なんだ。」

 

 あるようでなかなか見つからないのが、フィッシュアンドチップスが作中に出てくる作品です。私が知らないだけかもしれませんが、今のところ『七つの時計』しか見つけられませんでした。

 この作品は1929年発表のアガサ女史39才、前夫アーチボルト・クリスティーとの離婚後、翌年の作品です。バトル刑事シリーズの第2作目となります。

 

 

 

 

 フィッシュアンドチップスが、そもそものロンドン労働者階級の食べ物であった故か、美食家のポアロには向かない食品のように思えます。アガサ女史本人もいつも食していたように思えません。(私の主観です。)

 

 材料に使われたのは、もともと中米からヨーロッパに持ち込まれたジャガイモと、主に北海で獲られた白身の魚(タラ・ニシンなど)でした。

 

 

 

 まだ漁船の性能が低かったころ、鮮魚は多くのロンドン市民にはなじみのない食品だったようで、後に蒸気船とトロール漁法、さらには蒸気機関車が導入されるにつれて多くの市民にも食されるようになったようです。

 とはいうものの、階級社会のイギリスのこと、もっぱら筋肉労働にたずさわる、労働者階級に愛されたようです。それゆえ、魚の荷揚げに従事する港湾労働者が住まう、ロンドン・イーストエンドはスラム化しました。連続殺人鬼として名高い”切り裂きジャック”の暗躍したのも、このイーストエンドでした。

(上の地図、ロンドンという文字の右側が通称イーストエンドと呼ばれる地域です。)