経験を生かしたミステリーのトリック

 アガサクリスティーの生涯は戦争と密接な関係が見られます。

 

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薬剤師・時代のクリスティー女史

 

 ボーア戦争(1899-1902)では、兄のモンティが従軍します。さらに、第一次世界大戦では彼女の最初の夫、アーチボルド・クリスティーも従軍参加。彼女自身も薬剤師として勤務します。この時期の経験が作品では大いに発揮されているように思えます。

 


ボーア戦争 世界で始めて動く映像に記録された戦争

 

 作品「杉の柩・1940年発表」では、英国作品らしく紅茶の登場するシーンが各所に見られます。加えて、殺人の小道具としても利用されるのですが、被害者は毒で殺害されます。

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アフタヌーンティー

 

 作品の終盤、薬の知識を生かして、毒薬(モルヒネ)の特徴を述べるシーンがあります。彼女の独壇場と思える場面です。

 

 モルヒネによる死はいろいろな症状を表すものである。もっとも普通に見られるのは、極度の興奮状態がある時間続くと、次に睡気が襲い、昏睡に陥り、瞳孔が狭まる。ほかのあまり普通に見られない症状は、フランス人によって電撃性と名付けられている。この場合は深い睡眠がごく短い時間ー約10分ほど起こり、瞳孔は広がる。(322頁 ハヤカワ書房)

 

Death from morphine poisoning might occur in several different ways. The most common was a period of intense excitement followed by drowsiness and narcosis, pupils of eyes contracted. Another not so common from had been named by the French, “foudroyante”. In these cases deep sleep supervened in a very short time - about ten minutes, the pupils of the eyes were usually dilated.(Page 229・ Sad Cypress)

翻訳(恩知三保子氏訳)並びに原書より引用。