アガサクリスティーと同時代の作家たち(アメリカ出身)

クリスティーの生まれた時代(1890年)、あまたの才能あふれるミステリー作家が生まれました。前回はイギリス出身の作家をご紹介しましたが、今回はアメリカの作家です。

あまりにも人数が少ないのですが、二人を紹介します。(他にもたくさんの人材がいますが、今回はこの二人でご容赦ください。)

 

最初はジョン・ディクスンカー(カーター・ディクソン名義でも活躍)。密室作品を扱った作品が多くを占めており、トリックの奇想天外(時にはバカバカしい)さに評価が分かれます。私は自分の趣味嗜好に合致するので、大好きです。

 

後の一人(二人ですが)は、エラリー・クイーン。正統派の作品を残しており、合作のスタイルを後世に残した功績は大と思います。若い時に読んだ、傑作「Yの悲劇」のキーワード”instrument”は、この作品で意味を理解しました。

 

 

 

 

アガサクリスティーと同時代の作家たち(イギリス出身)

チェスタートンの例の話を聞いたことがありますかね?作家のG・Kチェスタートンですよ。
翻訳本 141頁


Ever heard that story about Chesterton? G.K.Chesterton, you know, the wrietr.原書104page.

 クリスティー女史の作品には、実在の推理作家の名前が時々登場します。シャーロックホームズを産んだコナンドイルは有名ですが、本作“バートラムホテルにて”にも、G・Kチェスタートンのエピソードが引用されています。クリスティーは処女作“スタイルズ荘の怪事件”を発表後、イーデンフィルポッツ(Eden Phillpotts、1862年- 1960年)に指導を仰いだようです。


 イギリスの19世紀末から20世紀初頭はミステリー作家の活躍した第一期と言えるかもしれません。次に挙げる三人はアガサ女史とほぼ同時代のイギリス出身の代表的な作家です。

 

  *海の親⇒生みの親の間違いです。(お恥ずかしい)

 

 

次回セミナー用テキストにとりかかりました。

 次回のセミナー本番まで2カ月を切りました。

毎回、この辺りから心理的に追い込まれる日々が続きます。まず、テキスト1ページ目は、作品『バートラムホテルにて』に登場する人物相関図を作成してみました。

 

 我ながら、こうやって整理してみると全体像がよりはっきりします。

イラストはフリー素材を使用させてもらってますので、文字から描いたイメージとは、やはり「ずれ」が生まれます。

 全体的に”良い人”ばかりの印象ですが、実際は違います。テキストは全体で通例、6~7枚程度ですが、さあ今回はどうなるか?私にも不明です。

 

 

第16回 教えてアガサセミナーのチラシ、完成しました。

 早いもので、”教えてアガサセミナー”は場所を変えつつ通算で16回を迎えます。

毎回、知恵熱が出そうなほど頭を痛めるのですが、終わったあとの爽快感がたまらず、

今日に至っています。さて、次回は『バートラムホテルにて』を取り上げます。

その予告チラシは次の通りです。

 

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さてこれからは、いつものテキスト作りに励む毎日となりそうです。

 



同窓会は楽しい?!

 しばらくアガサ作品「バートラムホテルにて」に集中して、アップしています。

もちろん次回の「教えてアガサセミナー」の題材でもあるからですが、1965年発表のこの作品時、作者アガサ女史は75才でした。今どきの表現ですと「後期高齢者」となります。

徐々に昔を知る仲間が減っていき、それに反して世の中の変化のスピードは加速するばかり。見る見るうちに変貌を遂げる社会に抗い抵抗するうち、諦めがそっと忍び寄ってきます。バートラムホテルにての文中にも次の様な文章が見られます。

 

バートラムホテルは変わっていなかった。ミスマープルはいつもながらの明晰な常識でよく分かるのだが、昔のままの色合いで過去の思い出に磨きをかけてみようと思っただけである。彼女の人生の多くはやむを得ないことであるけれど、過去の楽しかったことを思い起こすことで費やされている。その思い出をおぼえているような人にでも出会うことが出来れば本当に幸せである。翻訳27頁

But Bertram’s Hotel had not changed.
She knew quite well, with her usual clear-eyed common sense, that what she wanted was simply to refurbish her memories of the past in their old original colours.  Much of her life had, perforce, to be spent recalling past pleasures. If you could find someone to remember them with, that was indeed happiness.  原文16page 

 

 他の作品(特にミス・マープルシリーズ)にも、変わりゆくイギリスの田舎風景がよく描かれています。それはどうしようもないことなのだ、という諦めに近い表現でマープル(アガサ本人?)の心情が吐露されています。

 

 

 仕事を離れた初老の男性(もちろん女性も)が、長らくあっていなかった旧友と同窓会で、お互いだけに通じる話に興じるのは、『その思い出をおぼえているような人にでも出会うことが出来れば本当に幸せである。』だからでしょう。

アガサ作品にふれると、しばし考えに深く陥ることがあります。この作品もそんな一冊です。

挿入された過去の作品

この前の西インド諸島旅行など叔母さんはけっこう楽しんでいたらしいからな。もっとも殺人事件なんかに巻き込まれたのは気の毒だったけれど。

翻訳本 25頁

She enjoyed her trip to the West Indies, I think, though it was a pity she had to get mixed up in a murder case.

原文 14page

自分の作品の中に過去の作品を挿入することを絵画の世界では「画中画」というそうですが、小説の場合はどういうのでしょうね。

“バートラムホテルにて”は1965年に発表されています。文章内での西インド諸島とは、おそらく前年1964年発表の“カリブ海の秘密”のことを表しているのでしょう。

こういったいわゆる“お遊び”は、多作でしかも一定の水準を保持した作家に許されることなのではないでしょうか?

 

ちなみに絵画の世界の一例として、フランスの点描画で有名なジョルジュスーラ(1859-1891)が描いた作品に、この趣向が見られます。

 

バートラムホテルのモデルは?

バートラムホテルはずっと昔からそこにあった。1955年にはこのホテルは1939年当時とそっくりになっていた。---中略--- 中に入ると、バートラムホテルに初めての人だったら、まずびっくりする。もはや消滅した世界へ逆戻りしたのではないかと思う。時代が後戻りしている。まるでエドワード王朝時代の英国なのである。
小説7~8頁

Bertram’s hotel has been there a long time. By 1955, it looked precisely as it had looked in 1939. Inside, if this was the first time you had visited Bertram’s hotel, you felt , almost with alarm, that you had re-entered a vanished world. Time had gone back. You were in Edwardian England once more. Page 1~2

作品ではバートラムホテルは、以上のような描写で表されています。実際のホテルをモデルにしたようですが、イメージに合致するホテルはどんなホテルでしょうか?
これは各自の想像のままに、思い浮かべるのが正解でしょうがここに一冊のアガサクリスティー作品を読むにあたって大変参考になる著書があります。

 

『アガサクリスティー百科事典 数藤康雄氏・早川文庫』著者は確か、イギリスまでアガサ女史に会いに行かれた方で、作品にまつわる多くの貴重なアドバイスが収められています。ぜひ一読ください。

この本では、バートラムホテルのモデルは、レミングホテルあるいはブラウンズホテルでは?と、されています。

 

 

 


どちらもいかにもイギリス・ロンドンらしい趣を持ったホテルですね。
(写真・文章は、“ロンドンのホテル・旅名人ブックス 日経BP企画”に依ります。)

*一部8月30日の内容と重複する箇所があります。念のため